臆病で小心者だった自分から、高校を卒業して以来、悩み事が消えてしまった。
「ここ何年も悩み事をしたことがないんだけど……」
そう話すと、友人には半ばあきれられてしまう。
悩み事の解決には「工夫型」か「無策型」か、そして「他者依存型」か「自己完結型」かの組み合わせで、四つの方法があると思う。江戸時代に日本を治めた三人の武将の句が、それを端的に示している。
鳴かぬなら 殺してしまえ ほととぎす(織田信長)
鳴かぬなら 鳴かせてみよう ほととぎす(豊臣秀吉)
鳴かぬなら 鳴くまで待とう ほととぎす(徳川家康)
鳴かない「ほととぎす」が目の前にいたらどうするか――。この問題を、信長は「無策型」で「自己完結型」、秀吉は「工夫型」で「他者依存型」、家康は「無策型」で「他者依存型」の方法でそれぞれ解決している。
ここで注目すべきは「工夫型」で「自己完結型」という第4の方法がポッカリと空いていることだ。三人の武将でさえ埋めることができなかったこの「空白地帯」を見事に埋めてくれたのは、高校時代に知った、もう一つの句だった。
鳴かぬなら 私が鳴こう ほととぎす(作者不詳)
自己完結ぶりが際立っていて、四つの句の中で一番気に入っている。「暗い! と不平を言うよりも、進んで明かりをつけましょう」といった感じで、人生訓って感じがする。
実家に帰省すると、押し入れの奥で眠っているトランペットのことが必ず気になってしまう。小学生のころ、朝礼の際にブラスバンド部が演奏している姿を見て憧れていたのがトランペットだった。20年以上も前のことだけれど、購入当時の気持ちはよく覚えている。
「楽器を演奏しながら歌いたい」
それがトランペットでは叶わぬ夢だと気付いたのは、ピカピカのトランペットを手にしてすぐのことだった。当時の値段で3万5000円はしたはずだけれど「ド・レ・ミ」ぐらいしか音を出すことができないまま、今に至っている。
そんなわけで、高校の入学祝いに両親からプレゼントしてもらったのはギターだった。このときの気持ちもよく覚えている。
「ギターを弾いて自分で歌えば、レコードを買う必要がない」
悩み事がないことについては、ずっとその理由が分からずにいたけれど、久しぶりに一連の出来事を思い出し、答えが見つかった気がした。「私が鳴こう」の句が指し示す「まずは自分が変わればいいじゃない」という教えが、直面する問題を悩み事とは感じなくしてくれていた。他人を変えることは難しくても、自分が変わることはそれほどではない。
「魔法を使えたら…」と思うこともあるけれど、目の前に現れた問題をプラスに変えられる魔法の言葉が、私にはあった。
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