北風と太陽

バリアフリー観察記2002年

北風と太陽

 ただ単に気持ちを伝えるだけならだれにでもできるけれど、それによって相手の行動を引き出すことは容易ではない。「テレビを付けてほしい」とか「お茶を入れてほしい」といったことならまだしも、不満の気持ちを理解してもらい、相手に態度を変えてほしいときには、その伝え方に困ることがある。

 イソップ物語の一つに「北風と太陽」がある。北風と太陽が「旅人のコートを脱がせる」力比べをするあの話だ。結果はご存知のように太陽の勝ち。力ずくでコートを脱がせようとする北風に対して、太陽は温かく見守ることで旅人のコートを脱がせる。「押してもダメなら引いてみな」といったところだ。

「俺だったらガツンと言っちゃうよ」
 居酒屋で仕事仲間に虚勢を張っていたサラリーマンが突然、日米交渉の席でアメリカ大統領と対座してしまう――。そんな缶コーヒーのCMコピーが受けていた1999年に、財団法人共用品推進機構が誕生した。
 前身に当たるE&Cプロジェクトは、だれもが使いやすい製品やサービスについてのアイデアを形にしてきた任意団体で、よく知られているところでは、テレホンカードの端に小さな丸い切り込みを入れて他のカードと手触りで区別できるようにし、公衆電話に差し込む方向も分かりやすくしたアイデアがある。

 活動を支えているのは実にさまざまな立場の人たちだ。福祉・教育・行政関係者のほか、メーカーで物作りの現場に携る人、流通や販売の関係者、マスコミ関係者など、あらゆるジャンルの人たちが時間をやりくりしながら個人で活動に参加している。障害当事者もいればそうでない人もいる。
 これらの人たちが一緒になって障害者、高齢者、妊産婦などの「不便さ調査」を行い、そこで明らかになった問題の解決法を考え、アイデアを具体的な「提案」に昇華させて、企業や行政に働きかけている。言ってみれば、ガツン! という「要求」ではなく太陽のような「提案」によって快適な生活を実現しようとしているわけだ。

 健康のためには適度な運動が必要だと知ってはいても、階段よりエレベーターを選んだり、近所のコンビニに行くだけなのに車を使ってしまったりする。それでいてお腹のまわりを気にしてみたり……。自分のためになることでさえこんな具合だから、自分以外の人を変えようなんて考えたら、気が遠くなってしまう。

 共用品推進機構は年々活動の範囲を広げている。国際会議にも出席してさまざまな提案をし「キョウヨウヒン(共用品)」という言葉が世界の専門家の間でも通じるようになっている。他人を変えることは確かに簡単ではないけれど、問題解決の道筋さえ示すことができれば思いのほか理解者は見つかるものだと、この団体の活動は気付かせてくれる。

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Last Update : 2003/02/24