ライターはバリアフリー商品!?

バリアフリー観察記2002年

ライターはバリアフリー商品!?

「ユニバーサルデザインの製品にはどのようなものがありますか?」
 こんな質問を受けたことがある。製品を集めて番組で紹介したいというテレビ局の人からだった。中身を点字で表示してある食品のパッケージ、瓶のフタを簡単に空けられるオープナー、強くつままなくてもコンセントから簡単に抜けるプラグなどを挙げながら「例えば、こういう感じの商品なんですけど…」ということだった。
 当時、話題になっていたものをいくつか紹介はしたものの、実はこういう質問にはとても答えにくい。ユニバーサルデザインという言葉を聞くようになったのは最近のことで、つい「新しい考え方」というイメージを持ってしまいがちだが、この言葉が生まれるずっと以前にも、たくさんの使いやすい製品が作られているからだ。

 例えば、ライター。マッチとは違って片手でカチッと点火でき、雨や汗で湿ってつかなくなることもないから、今ではキャンプやスキーの必需品。タバコや花火、たきぎに火をつけるときには欠かせない存在になっている。実はこれが、もともとは片手を失った人が簡単に火をつけられるように改良されたことで一気に普及した、バリアフリー商品だった。その原形は第一次世界大戦のさなか、戦場の兵士がライフル銃の薬きょうを使って作ったとされている。
 ライターの歴史は1900年代初頭までさかのぼるけれど、当時の最先端技術は敗戦国であるドイツ、オーストリアが握っていたと聞けば、歴史の重さに、思わずうなってしまう。

 今ではどこにでも持ち歩けるようになった電話も、ユニバーサルデザインの製品と言える。電話を発明したグラハム・ベルは、聴覚障害があるお母さんと奥さんと話すために電気式の補聴器を開発する過程で電話の仕組みを完成させた。ワープロやパソコンの先駆けであるタイプライターも、初めは視覚障害者が墨字を書くための筆記具だった。
 これらはもともと障害がある人の不便を解消するためのバリアフリー製品として誕生している。ところが、その便利さが他の人にも受け入れられ、今では生活の中に完全に溶け込んでいる。誕生の歴史を知らずに、単に“便利なもの”として使っているけれど、これこそ、ユニバーサルデザインを形にしたものではないか。

 こう考えると「バリアフリー」や「ユニバーサルデザイン」は特別な考え方などではなく、むしろ「使いやすいものを作る」という物作りの基本に、新しく名前を付けただけのことだと思えてくる。

 福祉の話、高齢者や障害者が使うもの、専門の人が専門の技術を駆使して開発するもの――。バリアフリーやユニバーサルデザインというとこんなふうに思いがちだけれど、どうやらそうではなさそうだ。Yシャツやズボンの予備のボタンはビニール袋に包んでポケットの中に入れられているけれど、たまに、裾などの目立たないところに縫い付けてあるものがある。これならなくなることがないし、裁縫箱の中から同じボタンを探す手間もかからない。と同時に、見えない人でも色と形が同じボタンを難なく付け替えることができるアイデアだ。

 長く歌い継がれる歌があるように、いい商品も世代を超えて愛され、いつの間にか特別な存在ではなくなっていく。あまりに身近過ぎて考えもしなかったそれらの便利さに気付いたときには、思わずポンと膝を叩いてしまう。

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Last Update : 2003/02/24