知人から「たまごっち」を借りて育て始めた。97年に爆発的な人気を博した手のひらサイズのゲーム機で、卵から生まれたキャラクターを成長させていくというアレ。当時は全国的に入手困難になったけれど、今では、逆の意味で入手困難。電車の中では「今ごろ何をやっているんだ?」といった視線が突き刺さってくる。
とはいえ、ペット型ロボットの時代を切り開いたこのゲームには以前から関心があった。
言葉をしゃべることができない「たまごっち」は、ことあるごとに「ピー、ピー」と電子音を発して世話を求めてくる。そのたびにご飯を食べさせたり、ご機嫌をとったり、うんちの世話をしたりするのだけれど、手間を惜しむとぐれて不良になったり、ひねくれたキャラクターに育ったり、揚げ句の果ては死んでしまったりするので厄介だ。人気の絶頂期には車の運転中にご飯をせがまれて事故が起こったり、授業の邪魔になるからと「たまごっち」禁止令を出した学校も珍しくはなかった。
さすがに夜には眠る設定になっているようだけれど、時間をきちんと設定せずに育て始めたときには、昼間と間違えて一晩中「ピー、ピー」と鳴きまくっていた。朝まで放置していると、何やらガツガツとご飯を食べるおかしなキャラクターに姿を変えた上に、四つもうんちをしている始末。
思わず布団をかぶってしまうほど耳に付くこの電子音だが、不思議なことに、難聴の人には聞こえにくい音らしい。調理器や洗濯機のタイマー、目覚まし時計、危険を知らせる警報器などなど、電子音は身のまわりで増えているものの、いずれも難聴の人には不便なものばかり。防犯タグが外れてブザーが鳴っていることに気付かずにいて、万引きと間違われたりする人もいるらしい。そのため、電子音とともにブルブルという振動やピカッという光を併用してほしいという要望は多い。
下の子を病院に連れていったときには、インフルエンザが流行っているのか、待合室は小さな子どもを連れたお母さんでいっぱい。診察を受ける前に子どもの体温を測っていると、隣でピピッ、後ろでピピッ、向こうでピピッ、こっちでピピッっと電子音があちこちで鳴り、一体だれの測定が完了したのか分からない状況だった。水銀柱のタイプとは違って、測定が終わる前に外すとエラーが表示されて測り直しになってしまう。
携帯電話が普及し始めたばかりのころには、一人の電話が鳴りだすと、まわりの人が一斉にそわそわとして自分のポケットを確認する光景によく遭遇した。現在のように着メロなんてなく、どれも同じような電子音で着信を知らせていた当時は、振動モードにしていなければ自分と他人の区別がつかなかった。電子音が振動や光と併用されれば便利な場面は、結構あるものだ。
家中の電化製品がリモコンで操作できるようになったり家事仕事が機械化されたりと、生活を便利にする新しい製品が次々と発売されている。でも、新しいものが一つ開発されても、決してすべての人にとって便利だとはかぎらない。むしろ、規格化されたものが大量に生産されることで、ユーザーとして想定されていなかった人たちにとっては、新たなバリアが急速に増えてしまうことになる。
トップへLink