独自の工夫が生む不便

バリアフリー観察記2002年

独自の工夫が生む不便

 電話のプッシュボタンと電卓の数字ボタンの並びは、どうして上下が反対なんだろう。電話は一番上の列が「1・2・3」、2列目が「4・5・6」、3列目が「7・8・9」。ところが電卓は、1列目が「7・8・9」、2列目が「4・5・6」、3列目が「1・2・3」といった具合。
 値段によって配列が違ったりするのだろうか。でも、会社の電話機も、販売部や経理部が使っている業務用の電卓も、我が家と同じ配置だった。それどころか、パソコンのキーボードや銀行のATM、お店のレジスターは、いずれも電卓と同じ。電話だけがなぜ? と辺りを見渡すと、テレビのリモコンが電話と同じだった。

「規格で統一されればいいのに」と思ってしまうけれど、実は、電話も電卓も国際規格によるものだった。ところが、規格を定めているのは電話が国際電気通信連合(ITU)、電卓などの計算機が国際標準化機構(ISO)と別々で、数字ボタンの配置についての共通の規格はないようだ。

 数字ボタンの「5」の上には、小さなポッチ「・」が付いている。これを起点に各数字の位置が分かるアイデアではあるものの、上下が逆さまでは大違い。ATMで1万円を下ろそうとしても、電話の要領で金額を入力すると7万円が出てきてしまう。
 JR東日本のタッチパネル式券売機には、数字ボタンが付けられている。目が不自由な人が金額を直接入力して切符を買えるようにした配慮だが、この数字ボタンの並びは、さて、どちらだろうか? 実は、意外にも電話と同じだった。頭が混乱しながらよくよくまわりを観察してみると、コンビニに設置されるようになったATMの数字ボタンまでが電話と同じになっていた。街のATMとは反対だ。
 規格があるようで統一感がない数字ボタン。こうなると「それぞれの数字ボタンには“電話式”“計算機式”といった表示を付ける」なんていう新たなルールが必要になりそうだ。

 規格がないと知って意外だったのは、点字ブロックだ。もともと点字ブロックには、出入り口や階段の前といった「位置」や「停止」などを意味する突起が丸いものと「進行方向」を示す突起が棒状のものの2種類がある。でも、突起の密度やサイズは、駅によってまちまち。敷設された時期が違うと、同じ構内でも場所によって形状が違っていたりする。色も、目立つように黄色に塗られているところがあるかと思えば、途中から突然グレーに変わっているところもある。

 バリアフリーを実現するために、企業や自治体が製品やサービスに独自の工夫を取り入れるようになっている。でも、これですべてがOKというわけではない。それぞれが独自の工夫を取り入れることで、一つのバリアを解消するための「工夫」が無数に氾濫してしまう。独自の工夫はあくまでも独自でしかなく、どこかで標準的な規格に統一されなければ、むしろ使いにくさを生んでしまう。 車がギアを一つずつ上げながら加速していくように、バリアフリーも、そろそろ、次の段階に進む時期にきているようだ。

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Last Update : 2003/02/24