長年、車を運転していても、いまだに意味が分からない交通標識が結構ある。「車両通行止」と「駐車禁止」のように似ているもの「安全地帯」のようにマークを見ても直感的には分からないものは、覚えるのに苦労する。これらは運転免許を取得するときの学科試験用には覚えても、時間が経つに連れて忘れてしまいがちだ。
分かりにくい標識はすべて、数字や線だけで表示されている。赤地に真一文字の白線を引いてある「車両進入禁止」はあちこちで見かけるものの、それと知らなければ直感的にその意味は分らない。その点「通行止」「横断禁止」などの文字が添えられている標識の分かりやすさは圧倒的だ。赤地に白く「止まれ」、白地に青で「徐行」と書いてある標識なら、その意味は一目瞭然だ。でも、日本で運転をしている外国人は、これらの標識の意味を理解しているのだろうか。
そんなことを考えていると、英語表記付きの標識や看板が目に入ってきた。タバコのイラストに斜め線を引いた禁煙マークには「禁煙」の文字とともに「No Smoking」と併記されている。道路に消火栓が埋められていることを示しているマークは、赤地に白抜きで「消火栓」と書いた上に「FIRE HYDRANT」と表記されている。街で見かけた交番には「KOBAN」という案内板が付けられていた。これなら、外国人観光客にも意味が伝わる。
牛乳の500ミリパックと1リットルパックの上部には、半円形の切り込みが入っている。見えない人がジュースなどの飲料と牛乳を触って区別できるようにしたアイデアがJAS規格(日本農林規格)に採用され、現在のようなパックが並ぶようになった。ちなみに、この切り込みは空け口の反対側に付いていて、これを頼りに空ける側が分かるようにもなっている。
見えない人が触って区別できるようにするこれらの配慮がどんどんと取り入れられるようになっている。テレホンカードの差し込み方向を分かるようにした丸い切り込みや、シャンプーの容器本体にギザギザ模様を付けて、目をつぶったままでもリンスと区別ができるようにしたアイデアがそのきっかけになった。
こうして生まれたアイデアが規格化され、普及していくことはいいことに違いない。ところが、心配がある。触って区別できるようにするための印や記号が、増え続けていくことへの不安だ。例えば、銀行のキャッシュカードやクレジットカード、JRのSuicaカードなどは、どれも同じ形をしている。コンビニの棚を眺めていると、似たような形のプラスチックのカップが並んでいるけれど、中身がヨーグルトなのかプリンなのか、カップケーキなのかを触っただけで区別することはできそうにない。我が家の台所を見ても、瓶に入った酢とみりん、一升瓶に入った醤油とお酒は、目で見なくては区別がつかない。外食をしたとき、刺し身にソースをかけてしまったことも何度かある。
生産性の効率を考えれば、今後も似たような形のものがどんどんと増えていくはずだ。それらを区別するためには無数の印や記号が必要になるけれど、実際のところ、覚えるのには限界があるはずだ。
印や記号の分かりにくさは、文字のない交通標識の分かりにくさと似ている。バリアフリーのために考案されても、それらを覚えることに忙殺されるようでは、本末転倒だ。先々は、点字なり「プリン」や「ビール」といった浮き出た文字などを併用するなどしなければ、せっかくの配慮が意味も伝わらないまま洪水のようにあふれ返ってしまいそうだ。
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