近所に、バリアフリー化が日本一進んでいるのではないかと思う郵便局のキャッシュサービスコーナーがある。タッチパネルで操作するタイプが普及し、銀行のATM(現金自動預払機)は視覚障害者には使えなくなったとされる中で、郵便局の機械にはタッチパネルの操作項目に対応するボタンが用意され、その横には、ボタンがどの操作に対応しているかが一つひとつ点字で示してある。暗証番号も金額も、数字ボタンで入力できる。これだけでもずいぶんと使いやすいと思うけれど、視覚障害者に操作を案内するための専用電話器までが用意されていて、よくよく見れば、英語のガイドまで聞けるようになっていた。
この機械の徹底ぶりは、それだけでは終わらない。床にはしっかりと誘導ブロック、通称点字ブロックが敷設されていて、手探りをしなくても、出入り口から機械の正面まで、迷わずに進んでいけるようになっている。あまりの徹底ぶりに、機械を作った人や、機械を設置しようと決めた人の思い入れが伝わってくるようだ。
ところが、子どもを公園に連れていく途中でこのキャッシュサービスコーナーを眺めていると、何かしっくりとしないおかしな感じにとらわれた。どうも収まりの悪い違和感だ。
実は、点字ブロックがまわりに一切なかったのだ。視覚障害者は、どうやってここまでくるんだろう? これだけさまざまな機能を備えていながら、本当に利用したい人は一人でくることができないという異様なアンバランスが、違和感の原因だった。
その風景を眺めながら、歴史の授業で習った「陸の孤島」という言葉が浮かんできた。東ドイツ領にありながら西ドイツ市民が暮らしていた西側ベルリンは、周囲を壁と鉄条網に囲われた、文字どおりの「陸の孤島」だったという、第二次大戦後の史実だ。中学生のころにはピンとこなかったけれど、こんな感じだったのかな? と想像してみたりした。
車いすに乗ったまま使用できるトイレを備えた店舗や映画館、床の段差を解消したスーパーなどなど、バリアフリーへの取り組みが広がっている。でも、それぞれがとてもよくできていても、まわりにはいくつものバリアが残っていて、バリアフリー化された施設はまさに孤島となって孤軍奮闘しているのが現状だ。それでも、一つひとつのパーツがあるからこそパズルが完成するように、点が増えて線になり、やがて面になるための助走が始まっているとは言えそうだ。
現代版「陸の孤島」の周囲はまだまだ分厚い壁で囲われているけれど、不要な壁がいずれ取り払われることは、歴史が証明している。
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