「ベッキーちゃん事件」の教訓

バリアフリー観察記2002年

「ベッキーちゃん事件」の教訓

 1997年に、アメリカで起こったちょっとした事件が大きな話題になった。世界的に大人気の人形キャラクター「バービーちゃん」のお友だちのベッキーちゃんが、バービーちゃんのお家から締め出されてしまった、いわゆる「ベッキーちゃん事件」だ。

 あのバービーちゃんが意地悪をした、という話ではない。実は、バービーちゃんの新しいお友だちとして華々しく登場したベッキーちゃんは、バービーちゃんにとって初めての車いすに乗ったお友だちだった。日本で言えばリカちゃん人形に当たるバービーちゃんで遊びながら、子どもたちに障害者への理解を深めてほしいというメーカー側のアイデアだった。

 ところが、意外なところに落とし穴があった。バービーちゃんのお家「バービー・ドリームハウス」が車いすには対応していなかったのだ。ドアの幅が狭い上に、家の中の通路も狭く、車いすに乗ったままでは、楽しく遊ぶことができなかった。
 皮肉とも言える話の内容から、このニュースは世界中で大いに注目されることになった。

 啓蒙のために車いすに乗ったお友だちを登場させておきながら、バービーちゃんの家自体がバリアフリー住宅ではなかったということを笑い話としてしまえばそれまでだ。でも、この事件は、街の中にバリアフリーが広がっていく段階を分かりやすく示していて、とても興味深いものだった。

 バービーちゃんのお家にバリアがあることは、障害がある友だちが加わったことで初めて明らかになった。これは、実社会でも同じで、日本では、高齢者が増えてきたことで街の中のバリアが注目されるようになった。
 そして、購入者からベッキーちゃんの窮状を知らされたメーカーは、その後、通路などのスペースを十分にとった家を新たに発売するとともに、関連商品のバリアフリー度を点検したという。この事件を境にして、メーカーが開発する商品は、初めからベッキーちゃんにも使いやすいように配慮されたものになったことだろう。

 不便を感じている人がいることに気付き、その人たちにも使いやすいものを作っていく――この二つがそろったときに、バリアが一つずつ解消されていくことを「ベッキーちゃん事件」は分かりやすく教えてくれている。
 子どものころはウルトラマンや仮面ライダーのおもちゃにさえさほど興味がなかったけれど、それ以来、息子たちとおもちゃ屋さんに行くと、ついつい「バービー・ドリームハウス」が気になってしまう。

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Last Update : 2003/02/24