「スワンベーカリー」というパン屋さんがある。98年6月、東京・銀座に1号店をオープンさせて以後、2001年11月、東京・赤坂に5号店がオープンした。
このパン屋さんは「クロネコヤマトの宅急便」の生みの親、小倉昌男さんの発案でチェーン展開を目指しているもので、障害者の働き場所を創ることを目指している。
障害当事者が木工品や陶芸品、石けんや織物などを作って販売し、貴重な社会参加の機会を得ている共同作業所が、全国には4000以上もある。ところが、その多くが商品として売れるものにはなっていない。月給1万円ならいい方で、代表者でさえ年収100万円というところが少なくない。当事者にとっても親にとっても必要不可欠な場所でありながら、善意のみによって支えられている脆弱な存在だ。
そこで小倉さんが注目したのが、パン作りだった。共同作業所で焼き立てのパンのやわらかなにおいを漂わせる店を展開できれば地域に根差したものになるし、日常的に利用される、と考えたのだ。その狙いは見事に的中し、お昼になると、近くに務めるOLやサラリーマン、近所の主婦などが焼き立てのパンを求めて足を運んでくる。従来の共同作業所と比べて仕事は決して楽ではないが、自分たちが提供するパンを楽しみにしてくれるお客さんに声をかけられながら、スタッフはうれしさとともに自信を感じている。月収も10万円ほどだという。
小倉さんが目を向けたのは、社会を変えることではなく、当事者を変えることだった。小倉さんが設立したヤマト福祉財団は当初、補助金を贈ることを主な活動にしていたけれど、それでは問題が解決しないことを悟ってすぐに方針を転換。全国の共同作業所の代表者を集めてビジネスセミナーを開催し、福祉の世界に企業経営のノウハウをストレートに導入した。福祉とは対極にある手法で世の中にある不都合を自力で解決させているところに、物流の革命児のすごみがにじみ出ている。
小倉さんは言う。
「例えば、障害がある人のために何かをしてあげようとか、買ってあげようとかいうのではなく『おいしいから買う、素敵だから買う』といった当たり前の気持ちが、バリアをなくすために役に立つのではないか」
今の自分に同じことができるわけではないけれど、福祉革命への挑戦を「小倉さんだからできること」などと考えたくはない。自分が持っている技術やノウハウを生かすことで、だれでもバリアフリーの実現に一役買うことができる、と理解したい。もちろんそこには、障害の有無は無関係だ。
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